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名将は敗戦をどう受け入れたか


Name: Foresight1974 Date: 2003/7/28(Mon) 00:14 CommentID: 17417
Message:
ここで、イビチャ・オシムという男を語るのは3回目だが、彼の記者とのやり取りは実にサスペンスなものだ。

直球を投げてもまず素直に返ってこない。捻って聞くと煙に巻く。食い下がるととぼける。ジェフ市原公式HP「オシム語録」コーナーは、月間PV(ページビュー)140万件という、市原はじまって以来の「ヒット商品」となったが、これはイビチャ・オシムのような人物をいかに多くの日本人の心を捉えたかが分かる。

ジェフ市原10年の私が断言する。断じて日本に140万人もジェフ市原のファンなどいない。



だが、7月26日の清水エスパルス戦後。名将は驚くほど率直な態度で記者達と向かい合った。

「まず最初に、エスパルスにおめでとうといいたい。」
と彼は切り出した。
「ウチもエスパルスも勝ちたい。その気持ちがぶつかり合うゲームだといった。そういう意味で、強い気持ちを持ったほうが結果を出す。2点入れられた時点で勝負の行方は見えてしまったし、残念だが起こるべくして(ミスが)起こってしまった試合だといえる。」

この日の選手起用についての質問は出たが、彼は詳細で明快な解説を語った。そして、メンタルや選手層といったチームの問題点についても触れた上で、「まだチームは成熟していない」とはっきり認めた。

そこには、かつて「優勝しなければいけないの?」ととぼけた男の姿はなかったが、依然として確固たる威厳を備えていた。
「優勝が苦しくなってしまったが」という記者の質問に対し、こう答えた。
「ジェフはただのいいチーム。優勝するには何かが必要だ。」
人生やスポーツについて深遠な哲学を持つ名伯楽の金言が、また生まれた。

この日の清水戦。開始15分で市原が2点目を失っていた。
ピッチでは清水の猛攻が続いている。

このとき、名伯楽は珍しく席を立った。
5分後、席に戻った彼が通訳を通じてNHKのリポータに語った理由は「トイレ」だった。
厳格な指導者として知られる男であるが、ヴィッセル神戸戦の途中、チームがまさかの3点リードを許すと、やはり席を立って、嘔吐したこともある。人間として決して強いわけではない。

気になることはあった。

清水戦の直前、市原ファンの私は嬉々としてスポーツ新聞のサイトを巡って情報収集にいそしんでいたが、初優勝を目指す彼らから出て来る言葉は、「平常心」「プレッシャーはない」だった。

だが、むしろ必要だったのは、あえてプレッシャーを受け入れることだったのではないだろうか。それと正面から向き合い、いろいろな心理的な葛藤を乗り越えて、人間は本当に強くなれるはずだ。
あえて成長に必要な要素から選手が目を背けた瞬間、選手の足を何かが縛りつけたかもしれない。

そのくらい、26日の市原の出来は悪かった。

清水の早い球離れについていけず、プレスをかける前にボールを回される。なお悪いことに、清水のDF陣は磐田と異なり、攻撃を攻撃陣だけに任せ切りにはしない。森岡やエメルソンが大胆に攻め上がり、マンマークについた市原守備陣は大混乱に陥った。

前半3分、14分の失点は守備陣のミスが発端だが、その前に大胆なサイドチェンジを仕掛け、また味方のシュートをきちんと詰めた清水のアン・ジョンファンを褒めるべきものだ。だがしかし、その前の市原守備陣の混乱、一人の選手に数人のマークが重なるような失態が何度も続いていた。その結果として、大事な場面でアンが完全にフリーな状態で攻撃を仕掛けることが出来たといえる。

NHKでTV中継解説をしていた元日本代表の北沢豪氏が、前線をチェ・ヨンス一人にして、前線からプレッシャーをかけられなかった点を指摘していたが、それは妥当ではない。オシム監督は、「フォワードをひとりしか置かなくても全員で攻めれば攻撃的にもできる。」と語り、全員守備、全員攻撃を最もラディカルに追求する指導者だ。本来ならば、前線を支援する山岸、羽生といった選手がチェの代わりにプレッシャーをかけなければならなかったはずだ。

また、多くのメディアが、今日出場停止処分を受けていたサンドロとミリノビッチの欠場の影響を指摘していたが、それについても十分ではない。市原のサッカーはただの「走るサッカー」ではない。必ずボールを数人のコンビネーションでキープしながら前進するサッカーだ。理屈のうえではそこには傑出した、個人能力は必要とされない。オシムは磐田戦後の記者会見で「身体能力の高い磐田のサッカーを90分続けるのは難しい」と指摘しているとおり、彼はそうした能力に信頼をおいていない。
とするならば、このボールキープの失敗、すなわち高い位置でボールをキープできず、また、それを支援する選手の遅さというシステム的な失敗こそが、本来の敗因であろう。

清水の出来は、TV中継を解説した北沢豪、長谷川健太両氏がそろって賞賛するほど良かった。今シーズン最高。今の順位は実力を明らかに反映していない。だが、市原が「するべきこと」をしていれば、こんな結果には絶対にならなかったはずである。それだけのシステムと訓練を積んできたからだ。問題なのは、そうしたものと別の、メンタルな部分だったのではないか。

そして、このメンタルを変えることが、日本人にとって一番難しい。
それは、日常生活で、会社で、TVをつければ相変わらずのニュースの中で、日本人が誰もが感じていることだ。閉塞の時代、と言われて久しい。誰もが変えなければいけないという認識を共通させながら、それを打破できない無力感に苛まれている。

かつて、オシムは市原について、「ミスについてオープンすぎる。「OKメンタリティ」だ」と嘆いたことがあった。ミスについては猛訓練で徹底的に修正した。これが外国のクラブチームならば、自然に選手に自信が芽生えるのかもしれない。だが、自信という言葉に対して、日本人は非常に屈折した態度を取る。
そのことに彼は気づいているだろうか?

市原は試練の時を迎えた。だが、選手が、そしてチームが本当に強くなっていくには避けて通れない道である。
その強い姿を見せられたとき、スタジアムに人々が感動を求めて観戦に来る「本当に良いチーム」が出来上がるだろう。


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